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殷天官

注釈 6
1157
原文字数
2107
訳文字数
6
注釈数
~6
読了時間

📖日本語訳

歴城の殷天官は、若い頃貧しく、胆力と才略に富んでいた。同郷に旧家の邸宅があり、数十畝にわたり、楼閣が連なっていた。しばしば怪異が見られたため、廃れて住む人がなくなった。時が経つにつれ、蓬蒿が次第に生い茂り、白昼でも入る者はいなかった。
ある時、殷公は諸生と酒を飲んでいた。或る者が戲言を云った。「この邸宅で一夜を過ごせる者がいれば、我々が一同で宴席を設けよう。」殷公は躍り起きて云った。「これ何の難いことか!」一席を携えて往った。衆は門まで送り、戲言を云った。「我々は暫く待っていよう。何か見えたら、急ぎ呼ぶべし。」殷公は笑って云った。「鬼狐があれば、捉えて証拠にするだけだ。」
遂に入ると、長い莎が道を蔽い、蒿艾が麻のように生い茂っていた。時は上弦の月で、幸い月色が昏黄として、門戸は辨えられた。幾つかの奥へと進み、やっと後楼に至った。月台に登ると、光洁可愛らしく、遂にそこで止まった。西望すると月明かりが山に銜えられた一線のようであった。坐って久しく、少しも異常はなく、伝言の誤りを竊笑した。地に席を敷き石を枕にし、牛女を臥して見た。一更が尽きようとする頃、恍惚として寐たくなった。
楼下に履き声がして、籍籍として上って来た。仮寐して睨むと、青衣の人が蓮灯を挑げて、突然殷公を見て、驚いて却退した。後の人に語った。「生人がいる。」下から問うた。「誰ぞ?」答えた。「識らぬ。」俄而一老翁が上って来て、殷公の傍に就きて諦視した。「此れ殷尚書だ。其の睡は既に酣かなり。但だ我が事を辦て、相公は倜儻なれば、叱怪せざるかも知れぬ。」乃ち相率いて楼に入り、楼門は尽く辟かれた。移時、往来する者は益々衆しくなった。楼上の灯輝は昼の如し。
殷公は稍稍と身を轉側し、嚏咳を作った。翁は殷公の醒めたことを聞き、乃ち出て来て跪いて言った。「小人に箕帚の女があり、今夜于歸する。不意に貴人を觸れてしまい、深く罪を責めないで願う。」殷公は起き上がり、曳いて云った。「今夕の嘉礼を知らず、賀するものもなく慚愧だ。」翁は云った。「貴人が光臨して凶煞を壓除してくれる、幸いである。即ち陪坐を煩わせて、倍益して光寵を得よう。」殷公は喜び、應じた。
楼中を入って視ると、陳設は綺麗で麗しかった。遂に婦人が出て来て拝んだ。年は四十余りと見えた。翁は云った。「此れ拙荊だ。」殷公は揖した。俄而笙楽が耳を聒り、奔って上って来る者があった。「至った!」翁は趨いて迎え、殷公も立って俟った。少し間、籠紗の一簇が、新郎を導いて入って来た。年は十七八と見え、豊采が韶秀であった。翁は先ず貴客に礼をするよう命じた。少年は殷公を目視した。殷公は儐者のように、半主礼を執った。次に翁婿が交拜し、既に、乃ち席に就いた。少し間、粉黛が雲の如し、酒胾が霧の如し、玉碗金甌が几案を光映した。酒を数巡酌み交わすと、翁は女奴を喚んで小姐を請うた。女奴は諾して入り、良久出なかった。翁は自ら起き、帏を搴んで促した。俄而婢媪輩が新人を擁して出て来た。環佩が璆然と鳴り、麝蘭の香りが散った。翁は上へ拜するよう命じた。起き上がると、即ち母の側に坐った。微かに目を留めると、翠鳳明璫を飾り、容華が絶世であった。既而金爵で酌み、大きく数斗を容れた。殷公は此物を持って同人に証すればよいと思い、陰に袖に内蔵した。偽って醉って几に隠れ、頽然として寝た。皆云った。「相公が醉った。」
居る間もなく、新郎が告げて行き、笙楽が暴作し、紛々と楼下へ去った。既而主人が酒具を斂い、一爵が少なく、冥搜して得られなかった。或る者が卧客を竊議した。翁は急ぎ戒めて語らぬようにし、殷公に聞かれることを恐れた。
移時、内外共に寂しくなった。殷公は始めて起き上がった。暗く灯火はなく、唯脂香酒気が四堵に充満していた。東方が既に白むのを視て、乃ち从容として出た。袖の中を探ると、金爵は猶在っていた。門に至ると、諸生が先に俟っていて、夜に出て早く入った者かと疑った。殷公は爵を出して示した。衆は駭いて問い、殷公は状況を告げた。共に此物は寒士の所有するものではないと思い、乃ち信じた。
後に殷公は進士に挙げられ、肥丘に任じた。世家の朱姓が殷公を宴し、巨觥を取るよう命じたが、久しく至らなかった。細奴が口を掩いて主人と語り、主人は怒色を示した。俄而金爵を奉じて客に飲むよう勧めた。諦視すると、款式彫文が狐の物と更に殊別なく、大いに疑問を抱いて、所從製したか問った。答えた。「爵は凡そ八只あり、大人が京卿の時、良工を覓して監製した。此れ世伝の物で、什襲して久しい。縁あって明府が辱臨し、適当に箱簏から取ったが、僅か其の七只が存じ、家人が窃取したか疑われた。しかし十年の塵封が如故で、殊更解らなかった。」殷公は笑って云った。「金杯は羽化した。然し世守の珍は失うべからず。僕に一具あり、頗る近似している。当に奉贈しよう。」終筵して署に帰り、爵を揀んで持って送った。主人は審視して、駭絶した。親しく殷公のもとに謝罪し、所自何来を詰問した。殷公は歷陳して�顛末を話した。始めて千里の物を狐が攝致することができ、而も終留することを敢えないことを知った。

📝注釈

殷天官

中国古代官职名,指吏部尚书,掌管官吏任免等事务

牛女

指牛郎星和织女星,中国古代传说中每年七夕相会的恋人

于归

指女子出嫁,出自《诗经》

拙荆

古代男子对自己妻子的谦称

什袭

指把物品层层包裹,珍藏起来

金杯羽化

指金杯像羽化升仙一样消失不见

📜原文

历城殷天官,少贫,有胆略。邑有故家之第,广数十亩,楼宇连亘。常见怪异,以故废无居人。久之,蓬蒿渐满,白昼亦无敢入者。会公与诸生饮,或戏云:“有能寄此一宿者,共醵为筵。”公跃起曰:“是亦何难!”携一席往。众送诸门,戏曰:“吾等暂候之,如有所见,当急号。”公笑云:“有鬼狐,当捉证耳。”
遂入,见长莎蔽径,蒿艾如麻。时值上弦,幸月色昏黄,门户可辨。摩娑数进,始抵后楼。登月台,光洁可爱,遂止焉。西望月明,惟衔山一线耳。坐良久,更无少异,窃笑传言之讹。席地枕石,卧看牛女。一更向尽,恍惚欲寐。楼下有履声,籍籍而上。假寐睨之,见一青衣人,挑莲灯,猝见公,惊而却退。语后人曰:“有生人在。”下问:“谁何?”答云:“不识。”俄一老翁上,就公谛视,曰:“此殷尚书,其睡已酣。但办吾事,相公倜傥,或不叱怪。”乃相率入楼,楼门尽辟。移时,往来者益众。楼上灯辉如昼。公稍稍转侧,作嚏咳。翁闻公醒,乃出,跪而言曰:“小人有箕帚女,今夜于归。不意有触贵人,望勿深罪。”公起,曳之曰:“不知今夕嘉礼,惭无以贺。”翁曰:“贵人光临,压除凶煞,幸矣。即烦陪坐,倍益光宠。”公喜,应之。入视楼中,陈设绮丽。遂有妇人出拜,年可四十余。翁曰:“此拙荆。”公揖之。俄闻笙乐聒耳,有奔而上者,曰:“至矣!”翁趋迎,公亦立俟。少间,笼纱一簇,导新郎入。年可十七八,丰采韶秀。翁命先与贵客为礼。少年目公。公若为傧,执半主礼。次翁婿交拜,已,乃即席。少间,粉黛云从,酒胾雾霈,玉碗金瓯,光映几案。酒数行,翁唤女奴请小姐来。女奴诺而入,良久不出。翁自起,搴帏促之。俄婢媪辈拥新人出,环佩璆然,麝兰散馥。翁命向上拜。起,即坐母侧。微目之,翠凤明珰,容华绝世。既而酌以金爵,大容数斗。公思此物可以持验同人,阴内袖中。伪醉隐几,颓然而寝。皆曰:“相公醉矣。”居无何,新郎告行,笙乐暴作,纷纷下楼而去。已而主人敛酒具,小一爵,冥搜不得。或窃议卧客。翁急戒勿语,惟恐公闻。
移时,内外俱寂。公始起。暗无灯火,惟脂香酒气,充溢四堵。视东方既白,乃从容出。探袖中,金爵犹在。及门,则诸生先候,疑其夜出而早入者。公出爵示之。众骇问,公以状告。共思此物非寒士所有,乃信之。
后公举进士,任肥丘。有世家朱姓宴公,命取巨觥,久之不至。有细奴掩口与主人语,主人有怒色。俄奉金爵劝客饮。谛视之,款式雕文,与狐物更无殊别。大疑,问所从制。答云:“爵凡八只,大人为京卿时,觅良工监制。此世传物,什袭已久。缘明府辱临,适取诸箱簏,仅存其七,疑家人所窃取;而十年尘封如故,殊不可解。”公笑曰:“金杯羽化矣。然世守之珍不可失。仆有一具,颇近似之,当以奉赠。”终筵归署,拣爵持送之。主人审视,骇绝。亲诣谢公,诘所自来,公为历陈颠末。始知千里之物,狐能摄致,而不敢终留也。