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死体の異変

注釈 14
841
原文字数
1974
訳文字数
14
注釈数
~5
読了時間

📖日本語訳

陽信県の或る翁は、邑の蔡店の者であった。村は城から五、六里離れており、親子で街道沿いに宿屋を営み、行商人を泊めていた。数人の車夫が往来し、荷物の運搬販売をしては、よくその家に宿を取った。
ある日の暮れ方、四人が一緒にやって来て、門を見ると飛び込むように泊めてくれと頼んだが、翁の家は宿客の部屋が満杯だった。四人はこれ以上行くあてがなく、堅く収容を請い求めた。翁は沉吟して一つの場所を思いついたが、客の気に入らないのを恐れるようだった。客は言った。「軒下の一隅で結構です。これ以上選り好みはいたしません」
その時、翁の息子の嫁が新たに死んでおり、遺体は部屋に安置されていた。息子は棺桶用の木材を買いに出てまだ帰っていない。翁は、霊を祀るその部屋が静かなので、通りを横切って客を案内した。その部屋に入ると、机の上の灯りが暗かった。机の後ろには衣類が掛けられ、紙の寝具が亡くなった者を覆っていた。寝場所を見ると、奥の間に連ねた寝台があった。
四人の客は奔走してかなり疲れており、枕につくやいなや、鼻息が次第に荒くなった。ただ一人の客だけがまだぼんやりしていたが、ふと寝台の上から「ささっ」という音がするのを聞き、急いで目を見開くと、霊前の灯火が部屋を照らしており、はっきりと見えた。女の死体が寝具を払いのけて起き上がった。やがて下りて、次第に寝室に入ってきた。顔は淡い金色で、生絹の額当てをしていた。寝台の前にうつむき寄り、寝ている客たちに三度、順に息を吹きかけた。
客は大いに恐れ、自分にも及ぶのではないかと、密かに布団を引き上げて頭を覆い、息を止め、唾を飲み込みながら聞き耳を立てた。しばらくすると、女は果たして来て、他の客と同じように彼にも息を吹きかけた。部屋を出て行く気配を感じると、すぐに紙の寝具の音がした。布団からそっと首を出して覗くと、仰向けに寝たままの死体は元の通りだった。
客はひどく恐れ、声を出すこともできず、ひそかに足で他の客たちを踏んだ。しかし、客たちは微動だにしない。どうしようもないと思い、衣服を着て逃げ出すよりほかないと考えた。ちょうど起き上がって衣服を整えると、「ささっ」という音がまたした。客は恐れて再び伏せ、布団の中に頭を縮めた。女が再び来て、何度も続けて息を吹きかけてから去っていくのを感じた。
しばらくして、霊床が音を立てるのを聞き、彼女が再び寝たと知った。そこで布団の底からそっと手を出してズボンをつかみ、急いでそれをはき、裸足で走り出た。死体も起き上がり、客を追いかけようとするようだった。帷の間を離れる頃には、客はすでに戸の閂を抜き取って外に出ていた。死体は走って追ってきた。
客は走りながら叫び続けたが、村の人々は気づく者もいない。主人の戸を叩こうと思ったが、遅れて捕まるのも恐れ、町へ向かう道を見て、力の限り逃げた。東郊に至り、ちらりと寺を見て、木魚の音を聞くと、急いで山門を叩いた。道士はその異常さに驚き、すぐには入れようとしなかった。踵を返す間もなく、死体はすでに至り、身体から一尺足らずのところまで迫った。客はますます困り果てた。門の外に白楊の木があり、周囲が四、五尺ほどあったので、その木を盾にした。死体が右へ来れば左へ、左へ来れば右へと隠れた。死体はますます怒った。しかし、互いに次第に疲れが見え始めた。
死体は突然立ち止まった。客は汗をかき息が逆らい、木の間に身を隠した。死体は突然躍り上がり、両腕を伸ばして木越しに探るように彼を襲った。客は驚き倒れた。死体は彼を捕らえることはできず、木を抱いて硬直した。
道士は密かに長い間聞いていたが、声がしないので、ようやくゆっくりと出てきて、客が地面に倒れているのを見た。灯りで照らすと死んでいるが、心臓の辺りがわずかに動いている。背負って中に入れ、夜明けになってようやく蘇生した。湯水を飲ませて尋ねると、客はありのままに状況を話した。
時は朝の鐘が鳴り終わり、夜明けの色がぼんやりとしている頃、道士が木を見上げると、果たして硬直した女がおり、大いに驚いた。邑の長官に報告し、長官は自ら検分に赴き、人に命じて女の手を抜かせたが、しっかりと閉じたまま開かない。よく見ると、左右の四本の指が、全て鉤のように巻きつき、木に食い込んで爪まで埋まっていた。さらに数人の力で引っ張って、ようやく下ろすことができた。指の穴は、鑿で開けた孔のようだった。
役人を遣わして翁の家を探らせると、死体が消え客が死んだことで、ごたごたと騒いでいるところだった。役人が故を告げると、翁は付いて行き、死体を担いで帰った。
客は泣きながら長官に告げた。「我々四人で出てきたのに、今一人で帰るのです。この事情をどうやって郷里の人に信じさせればよいのでしょう?」長官は彼に証明書を渡し、送り届けさせて帰した。

📝注釈

霊所室(れいしょしつ)

遺体を安置し、霊を祀る部屋。中国の伝統的な喪葬習慣に基づく。

紙衾(しきん)

死者にかける紙製の寝具(布団)。葬儀の際に用いられる。

搭帳衣(とうちょうい)

「掛け帳」や「帷」と解釈されることが多く、ここでは霊前に掛ける幕や衣類を指す。

蘭若(らんにゃ)

梵語「アーランヤ」の音写で、寺院、特に静かな場所にある寺を指す。

邑宰(ゆうさい)

県の長官。中国古代の地方行政官。

~なり/~たる

文語の断定表現。物語の冒頭などで客観的叙述に用いられる。

察察(さつさつ)/ささっ

物がこすれる軽い音を表す擬態語。死体が動き出す不気味な音を描写。

奔走(ほんそう)

「走り回る」ことを意味する漢語。ここでは客たちの疲労の理由を説明。

沉吟(ちんぎん)

「低い声でうなる」「深く思案する」こと。翁が場所を考えている様子。

吹く(ふく)

この話の核心的な動作。生者の「息」を奪うという、中国の鬼怪説話における典型的なモチーフ。

僵(こう)

「硬直する」「こわばる」意味。死体が最終的に取った状態を示す。

拔关(ばっかん)

「戸の閂を抜く」ことで、客が必死に脱出しようとする様子を表す。

望門投止(ぼうもんとうし)

旅人が日暮れに宿を探し、見つけた家に頼み込んで泊めてもらう様子を指す四字成語。

具以状对(ぐいじょうたい)

「すべて状況をありのままに答える」という意味の定型句。

📜原文

阳信某翁者,邑之蔡店人。村去城五六里,父子设临路店,宿行商。有车夫数人,往来负贩,辄寓其家。一日昏暮,四人偕来,望门投止,则翁家客宿邸满。四人计无复之,坚请容纳。翁沉吟思得一所,似恐不当客意。客言:“但求一席厦宇,更不敢有所择。”时翁有子妇新死,停尸室中,子出购材木未归。翁以灵所室寂,遂穿衢导客往。入其庐,灯昏案上。案后有搭帐衣,纸衾覆逝者。又观寝所,则复室中有连榻。四客奔波颇困,甫就枕,鼻息渐粗。惟一客尚朦胧,忽闻床上察察有声,急开目,则灵前灯火,照视甚了。女尸已揭衾起;俄而下,渐入卧室。面淡金色,生绢抹额。俯近榻前,遍吹卧客者三。客大惧,恐将及己,潜引被覆首,闭息忍咽以听之。未几,女果来,吹之如诸客。觉出房去,即闻纸衾声。出首微窥,见僵卧犹初矣。客惧甚,不敢作声,阴以足踏诸客。而诸客绝无少动。顾念无计,不如着衣以窜。才起振衣,而察察之声又作。客惧,复伏,缩首衾中。觉女复来,连续吹数数始去。少间,闻灵床作响,知其复卧。乃从被底渐渐出手得裤,遽就着之,白足奔出。尸亦起,似将逐客。比其离帏,而客已拔关出矣。尸驰从之。客且奔且号,村中人无有警者。欲叩主人之门,又恐迟为所及,遂望邑城路,极力窜去。至东郊,瞥见兰若,闻木鱼声,乃急挝山门。道人讶其非常,又不即纳。旋踵,尸已至,去身盈尺,客窘益甚。门外有白杨,围四五尺许,因以树自障。彼右则左之,彼左则右之。尸益怒。然各浸倦矣。尸顿立。客汗促气逆,庇树间。尸暴起,伸两臂隔树探扑之。客惊仆。尸捉之不得,抱树而僵。道人窃听良久,无声,始渐出,见客卧地上。烛之死,然心下丝丝有动气。负入,终夜始苏。饮以汤水而问之,客具以状对。时晨钟已尽,晓色迷蒙,道人觇树上,果见僵女,大骇。报邑宰,宰亲诣质验,使人拔女手,牢不可开。审谛之,则左右四指,并卷如钩,入木没甲。又数人力拔,乃得下。视指穴如凿孔然。遣役探翁家,则以尸亡客毙,纷纷正譁。役告之故,翁乃从往,舁尸归。客泣告宰曰:“身四人出,今一人归,此情何以信乡里?”宰与之牒,赍送以归。