水を噴く老嫗
📖日本語訳
ある夜、二人の婢が太夫人に付き添って母屋に宿っていたところ、庭内から「ぷつぷつ」という音が聞こえてきた。まるで裁縫職人が口に含んだ水を噴き出すような音である。太夫人は婢を促して起きさせ、窓に穴を開けて覗かせた。
そこには一人の老いた女がいた。背は低く、腰は曲がり、白髪は帚のように乱れ、髷を一つ結っており、その長さは二尺ほどもある。庭中をぐるぐると周り、歩幅を急に変えながら鶴のよう〔※注〕に歩き、しかも際限なく水を噴き出していた。
婢は驚いて戻り、報告した。太夫人も驚いて起き上がり、二人の婢が窓の下で支えながら一緒に見つめた。
すると老女は突然、窓に迫り、まっすぐに格子の内側へ水を噴きつけた。窓紙は破裂し、三人はともに倒れ伏した。しかし、他の家人はこのことを知らなかった。
東の空が明るくなり、家人が皆集まって来た。戸を叩いても応答がないので、ようやく驚いた。扉をこじ開けて中に入ると、主人一人と婢二人が、一つの部屋に並んで死んでおり、一人の婢だけは胸の辺りがまだ温かかった。支えて水を灌いだところ、しばらくして目を覚まし、見たことを述べた。
先生が到着し、悲憤のあまり死にたいほどであった。詳しく消えた場所を探らせ、深さ三尺余り掘ると、次第に白髪が現れた。さらに掘り進めると、一つの死体を得た。それは婢が目撃した通りの姿で、顔は肥えて腫れ、生きているようであった。打たせてみると、骨と肉は皆爛れており、皮の内側はすべて清水で満たされていた。
📝注釈
部曹(ぶそう)
清代の中央官庁(六部)に属する下級官吏を指す。日本語ではそのまま「部曹」と訳すか、「中央官庁の官吏」と説明を加える。
太夫人(たいふじん)
官吏の母に対する敬称。ここでは宋玉叔の母親を指す。当時の社会的地位が反映された呼称。
婢(ひ)
下女、はしため。身分の低い女性の召使い。
冠一髻(かんいっけい)
「一つの髷を冠る」、つまり髷を結っている様子。
撲撲/ぷつぷつ
液体が細かく噴き出る音を表す擬態語。原文の「扑扑有声」の不気味で生々しい響きを再現。
疏急作鵷行(そきゅう えんこう に なす)
解釈が分かれる句。「疏急」は歩幅の緩急、「鵷」は伝説上の霊鳥(鳳凰の一種)で、その優雅な歩みを指すとされるが、ここでは鶴のような独特の歩様と解釈する訳が一般的。妖怪の不自然な動きを描写。
周院環走(しゅういん かんそう)
「庭を一周し、巡り歩く」こと。妖怪の執拗な動きを表す。
東曦既上(とうぎ きじょう)
「東の太陽(曦)がすでに上った」という、夜明けを指す雅語的表現。
噴水层出不穷(ふんすい そうしゅつ ふきょう)
「水を噴くことが次から次へと尽きることがない」。妖怪の異常性と持続的な脅威を強調する。
骈死(へんし)
「並んで死ぬ」。三人が同じ状況で亡くなる様子を端的に表す漢語。
骨肉皆烂,皮内尽清水(こつにく かい らん、ひない じん せいすい)
「骨と肉はみな爛れ、皮の内はすべて清水であった」。結末の奇怪かつ生々しい描写。死体の内部が水に変わっているというオチが、噴水の怪異と見事に呼応する。
📜原文
莱阳宋玉叔先生为部曹时,所僦第,甚荒落。一夜,二婢奉太夫人宿厅上,闻院内扑扑有声,如缝工之喷水者。太夫人促婢起,穴窗窥视,见一老妪,短身驼背,白发如帚,冠一髻,长二尺许;周院环走,疏急作鹓行,且喷水出不穷。婢愕返白。太夫人亦惊起,两婢扶窗下聚观之。妪忽逼窗,直喷棂内,窗纸破裂,三人俱仆,而家人不之知也。东曦既上,家人毕集,叩门不应,方骇。撬扉入,见一主二婢,骈死一室,一婢膈下犹温。扶灌之,移时而醒,乃述所见。先生至,哀愤欲死。细穷没处,掘深三尺余,渐露白发;又掘之,得一尸,如所见状,面肥肿如生。令击之,骨肉皆烂,皮内尽清水。
王阮亭云:“玉叔襁褓失恃,此事属传闻之讹。”