13

桃を盗む

注釈 18
893
原文字数
2122
訳文字数
18
注釈数
~6
読了時間

📖日本語訳

私が子供の頃、府の試験(郡試)を受けるために出かけた時、ちょうど春節(旧正月)に当たっていた。昔からの習わしで、節の前日、さまざまな商人たちが、色とりどりの楼閣(山車)を作り、鼓吹(音楽)を鳴らして藩司(長官の役所)へ赴き、これを「演春」(春を演ずる)と呼んでいた。私は友人たちと一緒に見物に行った。
その日、見物人は壁のように立ち並んでいた。役所の堂上には四人の役人がいて、皆赤い衣を着て、東西に向かい合って座っていた。当時はまだ幼く、どのような官職かもわからなかったが、ただ人々の話し声が騒がしく、鼓吹の音が耳をつんざくばかりだった。
突然、一人の男が、髪を振り乱した子供を連れ、荷を担いで堂上に上がり、何かを申し述べているようだった。万の声がわめき立てるので、彼が何を言っているのかも聞き取れなかったが、ただ堂上の役人たちが笑っているのが見えた。するとすぐに、青衣(下役)の者が大声で芸をやれと命じた。
その男は命に応じようとして、問うた。「どのような芸をいたしましょうか?」堂上の役人たちは互いに顔を見合わせて二言三言話し、役人が下りて来て、得意な芸を尋ねた。(男は)答えて言った。「生物を逆さまにすることができます」。役人がそれを役人に報告した。しばらくしてまた下りて来て、桃を取って来いと命じた。
術者は承知すると、衣を脱いで笥(箱)の上に掛け、わざと困った様子を作り、言った。「お役人様はどうもはっきりなさいません!堅い氷もまだ解けていないこの時期に、どうして桃があるでしょうか?取って来なければ、また上の方々の怒りを買いそうで…。どうしたものか!」すると息子が言った。「父さんはもう承知したんです。どうして断れましょうか」。術者はしばらくの間、愁えていたが、やがて言った。「私はとっくに考えておった。春初めの今、雪が積もっていて、人の世のどこに桃があるというのか?ただ王母娘娘(西王母)の園の中には、四季を通じて枯れることがないから、あるかもしれない。天から盗んで来なければならない」。息子が言った。「えっ!天には階段でもかけて登るんですか?」「術があるのだ」。そこで笥を開け、一团の繩を取り出した。長さは数十丈もある。その端を整え、空中へ向かって投げ上げた。繩はたちまち空中にぶら下がって立ち、まるで何かがそれを掛けているようだった。間もなく、ますます高く投げ上げ、やがて雲の中に消えていった。手元の繩も尽き
そこで息子を呼んだ。「坊や、来い!わしは年老いて疲れ、体も重く不器用で、登って行くことはできん。お前に行ってもらおう」。そう言って繩を息子に渡し、「これを持って登れ」と言った。息子は繩を受け取ったが、難しい顔をし、怨むように言った。「お父さんもひどいぼんやり者だ!こんな細い一本の繩で、俺をくっつけて、万仞(非常に高い)の高天に登れだなんて。もし途中で切れたら、この骨はどうなるんだ!」父親はまた強いてたきつけ(嗚拍)ながら言った。「わしはすでに口を滑らせてしまった。後悔しても追いつかん。煩わしいが、お前に行ってもらおう。お前、苦労するな。もし盗って来られれば、きっと百金の褒美があるだろう。そしたらお前に美しい嫁を取ってやる」。息子はそこで繩を持ち、旋回しながら登って行った。手を動かし足が従う様は、まるで蜘蛛が糸を伝うようで、次第に雲霄に入り、もう見えなくなった。
しばらくして、一つの桃が落ちて来た。碗ほども大きくあった。術者は喜び、それを捧げて公堂に献上した。堂上ではしばらく回して見せ合ったが、本物か偽物かもわからなかった。
突然、繩が地上に落ちた。術者は驚いて言った。「しまった!上の者がわしの繩を切ってしまった。息子はどうすればいい!」しばらくすると、一つの物が落ちて来た。よく見ると、それは息子の首だった。(術者は)それを捧げ持って泣きながら言った。「きっと桃を盗んで、見張りに気づかれたに違いない。わが息子よ、もうだめだ!」またしばらくすると、片足が落ちた。間もなく、四肢体がばらばらに落ちて来て、もう完全な形ではなかった。
術者は大きな悲しみに暮れ、一つ一つ拾い集めて笥の中に納め、蓋を閉めた。そして言った。「この老人にはこの息子一人だけがおり、日々私について南北を巡り歩いてきた。今、厳しいご命令を受け、思いもよらずこんなに凄惨な目に遭うとは!背負って行って葬らねば」。そこで堂に上がり、ひざまずいて言った。「桃のためですっかり息子を殺してしまいました!もし私めを哀れんで葬いを助けてくださるなら、きっと結草(恩返し)をしてご恩に報います」。座っている役人たちは驚き怪しみ、それぞれ金を賜った。
術者はそれを受け取り、腰に巻き付けると、笥を叩いて呼びかけた。「八八児(はちはちじ)、出て来て褒美に礼を言わずに、いつまで待っているのだ?」すると突然、髪をぼさぼさにした子供の頭が笥の蓋を押しのけて出て来て、北(堂上の方)を向いて叩頭した。それは彼の息子だった。
その術が奇妙だったので、今でもまだ覚えている。後で聞いたところでは、白蓮教がこの術を行うことができるという。おそらくこれはその流れをくむ者なのだろうか?

📝注釈

郡試(ぐんし)

清代の科挙制度における最初の地方試験(童試)の一段階。

演春(えんしゅん)

旧正月の前日、商人たちが役所へ出向き、音楽や芸能を披露する習俗。春の到来を祝う。

藩司(はんし)

明代・清代の「承宣布政使司」の長官(布政使)。ここではその役所を指す。

青衣(せいい)

下級役人や従者が着る青色の衣服。転じて、その身分の者を指す。

王母(おうぼ)

西王母(せいおうぼ)。中国古代の神話で、西方に住み、不老長寿の桃(蟠桃)を管理する仙女の長。

結草(けっそう)

春秋時代の故事。恩を受けた死者が、恩人の敵を草の蔓に足を取らせて助けたという故事から、「死後も恩に報いる」ことのたとえ。

白蓮教(びゃくれんきょう)

中国宋代以降に発生した民間宗教結社。しばしば反乱を起こし、幻術を用いると信じられた。

游人如堵(ゆうじん じょと)

「見物人が壁のように立ち並ぶ」。大変な人出。

万声汹动(ばんせい きょうどう)

「万の声が騒がしく動く」。喧噪のさま。

颠倒生物(てんとう せいぶつ)

「生物を逆さまにする」。季節外れの物(ここでは桃)を作り出す意味か、あるいは物を消滅・再生させる奇術の総称。

体重拙(たいじゅうせつ)

「体が重くて不器用」。

呜拍(うはく)

「なだめすかす」。父親が息子を励ますしぐさ。

八八儿(はちはちじ

術者の息子の愛称。子供の名前に数字を用いるのは中国の習慣。

手移足随,如蛛趁丝(しゅ い そく ずい、くも しんし に いふ)

「手を動かし足が従う様は、まるで蜘蛛が糸を伝うよう」。息子が繩を登る巧みで不気味な動作の描写。

肢体纷坠(したい ふんつい)

「四肢体がばらばらに落ちる」。惨劇のクライマックスの生々しさ。

扣笥而呼(こう し よ こ)

「笥を叩いて呼ぶ」。最後の大逆転の始まり。

「以其术奇,故至今犹记之」

「その術が奇妙だったので、今でもまだ覚えている」。語り手の個人的な印象を強調することで、読者に実話めいた臨場感を与える。

「后闻白莲教能为此术,意此其苗裔耶?」

「後で白蓮教がこの術を行うことができると聞いた。おそらくこれはその流れをくむ者なのだろうか?」。怪異を現実の宗教結社と結びつけることで、物語に更なる真実味と、当時の人々の「白蓮教」に対する畏怖や好奇の念を反映させている。

📜原文

童時赴郡試,值春節。舊例,先一日,各行商賈,綵樓鼓吹赴藩司,名曰“演春”。餘從友人戲矚。
是日遊人如堵。堂上四官,皆赤衣,東西相向坐,時方稚,亦不解其何官,但聞人語嚌嘈,鼓吹聒耳。忽有一人,率披髮童,荷擔而上,似有所白;萬聲洶動,亦不聞其為何語,但視堂上作笑聲。即有青衣人大聲命作劇。其人應命方興,問:“作何劇?”堂上相顧數語,吏下宣問所長。答言:“能顛倒生物。”吏以白官。少頃復下,命取桃子。
術人應諾,解衣覆笥上,故作怨狀,曰:“官長殊不了了!堅冰未解,安所得桃?不取,又恐為南面者怒。奈何!”其子曰:“父已諾之,又焉辭?”術人惆悵良久,乃曰:“我籌之爛熟。春初雪積,人間何處可覓?惟王母園中,四時常不凋謝,或有之。必竊之天上,乃可。”子曰:“嘻!天可階而升乎?”曰:“有術在。”乃啟笥,出繩一團,約數十丈,理其端,望空中擲去;繩即懸立空際,若有物以掛之。未幾,愈擲愈高,渺入雲中,手中繩亦盡。乃呼子曰:“兒來!餘老憊,體重拙,不能行,得汝一往。”遂以繩授子,曰:“持此可登。”子受繩,有難色,怨曰:“阿翁亦大憒憒!如此一線之繩,欲我附之,以登萬仞之高天。倘中道斷絕,骸骨何存矣!”父又強嗚拍之,曰:“我已失口,追悔無及。煩兒一行。兒勿苦,倘竊得來,必有百金賞,當為兒娶一美婦。”子乃持索,盤旋而上,手移足隨,如蛛趁絲,漸入雲霄,不可復見。久之,墜一桃,如碗大。術人喜,持獻公堂。堂上傳示良久,亦不知其真偽。
忽而繩落地上,術人驚曰:“殆矣!上有人斷吾繩,兒將焉託!”移時,一物墜。視之,其子首也。捧而泣曰:“是必偷桃,為監者所覺。吾兒休矣!”又移時,一足落;無何,肢體紛墜,無復存者。術人大悲,一一拾置笥中而闔之,曰:“老夫止此兒,日從我南北遊。今承嚴命,不意罹此奇慘!當負去瘞之。”乃升堂而跪,曰:“為桃故,殺吾子矣!如憐小人而助之葬,當結草以圖報耳。”坐官駭詫,各有賜金。
術人受而纏諸腰,乃扣笥而呼曰:“八八兒,不出謝賞,將何待?”忽一蓬頭童首抵笥蓋而出,望北稽首,則其子也。以其術奇,故至今猶記之。後聞白蓮教能為此術,意此其苗裔耶?