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妖異の邸宅

注釈 19
311
原文字数
772
訳文字数
19
注釈数
~2
読了時間

📖日本語訳

長山の李公は、大司寇(刑部尚書)の甥である。その邸宅には多くの妖異が現れた。
かつて広間(廈)に春凳(長椅子)があるのを見た。肉紅色で、とても長くつややかであった。李公の家には以前このような物はなかったので、近づいて撫でてみると、手に触れたところが曲がり、ほとんど肉のように柔らかい。驚いて後ずさりすると、振り返って見た時には、四本の足が動き、次第に壁の中へ入っていった。
また、壁際に白梃(白木の棒)が立てかけてあるのを見た。清潔でつやつやとして長かった。近づいて支えようとすると、ねっとりとした感じで倒れ、委蛇(いだ) とくねりながら壁に入り、しばらくしてようやく見えなくなった。
康熙十七年、王生(浚升)がその家で塾を開いていた。日が暮れ、灯火がともった時、王生は靴を履いたまま寝台に横になっていた。突然、三寸ほどの小人が、外から入ってくるのが見えた。少しばかり旋回するだけで、すぐにまた去って行った。
しばらくすると、二つの小さな腰掛けを担いで来て、座敷の真ん中に据えた。それはちょうど子供たちが梁(りょう)の芯で作ったもののようであった。またしばらくすると、二人の小人が長さ四寸ほどの棺を担ぎ入れて来て、腰掛けの上に安置した。安置がまだ終わらないうちに、一人の女子が数人の下婢を率いて来た。みな先ほどのように小さい。女子は喪服(衰衣)を着て、麻の帯を腰に締め、布で頭を包んでいた。袖で口を押さえ、「嘤嘤(おいおい)」 と泣く声は、大きな蝿の羽音のようであった。
王生が睥睨(へいげい) しながら長い間見ているうちに、毛が逆立ち、まるで霜が体一面に降りたかのようになった。そこで大声で叫び、慌てて逃げ出し、寝台の下に転がり落ち、震え上がって起き上がれなかった。
塾中の者が声を聞いて集まって来たが、座敷の中の人物も物も、すでに跡形もなくなっていた。

📝注釈

春凳(しゅんとう)

中国の寝室などに置かれた、幅の広い長椅子または腰掛け。ここでは妖異化した家具。

厦(か)

「ひさし」「広間」を指す。邸宅の一部屋。

白梃(はくてい)

「白木の棒」または「無地の杖」。武器や道具として用いられる。

梁(艹黠)心(りょう しん)

「梁」や「高粱」の茎の芯。子供のおもちゃの材料として軽くて加工しやすい。

衰衣(さいい)

「脱穀場へ運び上げる」。粗末な麻布で作った喪服(「縗服」と同義)

麻练束腰际(まれん こしさい を そくす)

「麻の帯を腰に締める」。喪服の一部。

布裹首(ふ かしゅ)

「布で頭を包む」。喪に服す際の習俗。

修润(しゅうじゅん)

「長くてつやつやしている」。

抚按之(ぶあん これ)

「それを撫でて押してみる」。

委蛇(いだ)

「うねうねと蛇のように動くさま」。棒が生きたもののようにくねりながら動く不気味さを表す。

腻然而倒(じぜん として たおる)

「ねっとりとした感じで倒れる」。白梃の倒れ方が、通常の無機物とは異なる生々しさを持つ。

荷二小凳(に の しょうとう を か)

「二つの小さな腰掛けを担ぐ」。

舁一棺(いっかん を よ)

「一つの棺を担ぐ」。

随手而曲,殆如肉软(ずいしゅ として きょく、たい にくなん のごとし)

「手に触れたところが曲がり、ほとんど肉の柔らかさのようだ」。春凳が生物のような質感を持つ異常さ。

四足移动(しそく いどう)

「四本の足が移動する」。家具が自ら動き出す恐怖。

移时始没(いじ はじめて ぼつす)

「しばらくしてようやく消える」。妖怪がゆっくりと消え去る過程。

嘤嘤而哭,声类巨蝇(おいおい として こく、せい きょよう にるいす)

「嘤嘤と泣く声は、大きな蝿の声に似ている」。微小な者たちの泣き声の不気味な比喩。

睥睨良久(へいげい りょうきゅう)

「横目でにらみつけながら長い間」。恐怖しながらも観察する王生の様子。

毛森立,如霜被于体(もう しんりつ、しも たい に こうむるがごとし)

「毛が逆立ち、まるで霜が体一面に降りたかのよう」。極度の恐怖による身体的感覚の比喩的描写。

📜原文

长山李公,大司寇之侄也。宅多妖异。尝见厦有春凳,肉红色,甚修润。李以故无此物,近抚按之,随手而曲,殆如肉软,骇而却走。旋回视,则四足移动,渐入壁中。又见壁间倚白梃,洁泽修长。近扶之,腻然而倒,委蛇入壁,移时始没。康熙十七年,王生浚升设帐其家。日暮,灯火初张,生着履卧榻上。忽见小人,长三寸许,自外入,略一盘旋,即复去。少顷,荷二小凳来,设堂中,宛如小儿辈用梁(艹黠)心所制者。又顷之,二小人舁一棺入,长四寸许,停置凳上。安厝未已,一女子率厮婢数人来,率细小如前状。女子衰衣,麻练束腰际,布裹首;以袖掩口,嘤嘤而哭,声类巨蝇。生睥睨良久,毛森立,如霜被于体。因大呼,遽走,颠床下,摇战莫能起。馆中人闻声毕集,堂中人物杳然矣。