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妖物を捕らえんとする話

注釈 13
247
原文字数
657
訳文字数
13
注釈数
~2
読了時間

📖日本語訳

孫という翁は、元来、胆力が据わっていた。ある日のこと、昼寝をしていると、何者かが寝台に登って来るような気配がして、体がゆらゆらと揺れ、雲霧に乗っているかのように感じられた。(翁は)ひそかに思った、ひょっとして魘狐(えんこ) ではないかと。そっと目を細めて見ると、その物は猫のようで、黄色い毛に碧い嘴、足元から近づいて来た。
蠕蠕(ぜんぜん) と地を這うように伏せて進み、翁が目を覚まさないかと恐れているようだ。逡巡(しゅんじゅん) しながら体に近づき、足に触れると足が萎え、腿に触れると腿が力なくなる。ちょうど腹に届いた時、翁は驟然(しゅうぜん) に起き上がり、それを押さえつけて捕まえ、その首筋を握った。物は激しく鳴いて逃れようとするが、逃げられない。翁は急いで夫人を呼び、帯でその腰を縛らせた。
そして帯の両端を手に取り、笑って言った。「お前は化けるのがうまいと聞く。今、私はここに目を凝らしている。さあ、どうやって化けるのか見せてみよ」。そう言っているうちに、物は突然その腹を縮め、管のように細くなり、もう少しで抜け出そうとした。翁は大いに驚き、急いで力いっぱい縛り上げると、今度は腹を膨らませ、碗よりも太くなり、堅くて締め下げられない。力が少し緩むと、また縮む。
翁は逃げられるのを恐れ、夫人に急いで殺すよう命じた。夫人は慌ててあたりを見回したが、刀がどこにあるのかわからない。翁は左を向き、場所を示した。(夫人が)その方向を見てから振り返ると、帯は手の中で輪のようになっており、物はすでに跡形もなくなっていた。

📝注釈

魘狐(えんこ)

「人を押さえつけて悪夢を見させる(魘する)狐」。中国民間伝承で、睡眠中の人に取り憑く妖狐。「魘(えん)」 は、金縛りや悪夢の原因となる魔物の行為を指す。

素有胆(そ ゆう たん)

「元来、胆力が据わっている」。人物の基本的性格を示す。

蠕蠕(ぜんぜん)

「虫などがうごめく様子」。妖物の不気味で滑らかな動きを表す擬態語。

逡巡附体(しゅんじゅん ふたい)

「躊躇いながら体に近づき触れる」。警戒しながらも執拗に近づく様子。

着足足痿,着股股软(あし に つけば あし い、もも に つけば もも なん)

「足に触れると足が萎え、腿に触れると腿が力なくなる」。妖物の持つ身体を無力化する怪力を示す。

驟起(しゅうき)

「突然、急に起き上がる」。翁の果断な行動。

握其項(そのこう を にぎる)

「その首筋(項)を握る」。急所を押さえた的確な制圧。

聞汝善化(なんじ ぜん か と きく)

「お前は化けるのがうまいと聞く」。伝聞と対峙する翁の余裕のある言葉。

注目在此(ちゅうもく ここ に あり)

「(私の)注ぐ目はここにある」。じっと見ているから化けられない、という意味の、やや挑発的な言い回し。

縮其腹,細如管(そのはら を しゅく し、ほそき こと かん のごとし)

「その腹を縮め、管のように細くなる」。物理的に体を細くして逃れようとする変化。

鼓其腹,粗于碗(そのはら を こ し、あつき こと わん より あらし)

「その腹を膨らませ、碗よりも太くなる」。逆に膨張して締め付けを困難にする変化。この一縮一脹が「化け」の術であり、翁との力比喩の駆け引き。

帯在手如環然(たい てのうち に あり かん のごとし)

「帯が手の中にあり、輪のようである」。妖物が消え、縛っていたはずの帯だけが丸く残された不可思議な結末の光景。

物已渺矣(ぶつ すで に びょう なり)

「物はすでに渺茫(遠くかすか)となった」。妖物が跡形もなく消え去ったことを示す、締めくくりの一句。

📜原文

孙翁素有胆。一日,昼卧,仿佛有物登床,遂觉身摇摇如驾云雾。窃意无乃魇狐耶?微窥之,物如猫,黄毛而碧嘴,自足边来。蠕蠕伏行,如恐翁寤。逡巡附体:着足足痿,着股股软。甫及腹,翁骤起,按而捉之,握其项。物鸣急莫能脱。翁亟呼夫人,以带系其腰。乃执带之两端,笑曰:“闻汝善化,今注目在此,看作如何化法。”言次,物忽缩其腹,细如管,几脱去。翁乃大愕,急力缚之,则又鼓其腹,粗于碗,坚不可下;力稍懈,又缩之。翁恐其脱,命夫人急杀之。夫人张皇四顾,不知刀之所在。翁左顾示以处。比回首,则带在手如环然,物已渺矣。